ウオッカ育てた角居勝彦の現在と引退理由|珠洲市で挑む引退馬支援の今
2021年2月、調教師の定年である70歳を14年も残した56歳という若さで、日本競馬界の頂点に君臨していた名匠・角居勝彦氏が惜しまれつつ厩舎の看板を下ろしました。牝馬として64年ぶりに日本ダービーを制したウオッカをはじめ、国内外のG1レースで通算26勝を積み上げた名調教師の早期引退劇は、当時多くの競馬関係者やファンに大きな衝撃を与えました。
あれから月日が流れた現在、角居氏は第二の人生の拠点として選んだ石川県珠洲市において、引退馬のセカンドキャリア創出とホースセラピーの普及に全精力を注いでいます。華やかな競馬界のトップから一転、なぜ彼は絶頂期に引退を決断したのか。そして能登の地でどのような挑戦を続けているのか。希代のホースマンが描く「人と馬の共生」の真相に迫ります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2021年2月に56歳で勇退した角居勝彦氏は、母の介護という家族への責務と「競走馬の命を救う引退馬支援」に人生後半を捧げるため早期引退を決断した。
- 要点2:現在は母の故郷である石川県珠洲市に定住し、「サンクスホースプラットフォーム」やホースセラピー事業を通じて引退馬の活躍の場を広げ、能登の地域復興にも尽力している。
- 要点3:ウオッカやヴィクトワールピサなど数々の名馬を育て上げた育成哲学を活かし、馬を福祉・教育・観光と結びつける持続可能なエコシステムの構築を牽引している。
【電撃引退の真相】角居勝彦氏が56歳で調教師を去った真の引退理由

JRAの調教師免許には70歳定年制が定められており、第一線で活躍し続ける調教師の多くは70歳を迎える年の2月末まで厩舎を運営します。その中にあって、リーディング上位の常連であり、クラシックや海外大レースを勝ちまくっていた角居勝彦氏の56歳での引退は極めて異例の決断でした。
電撃引退の背景には、大きく2つの明確な理由が存在します。1つは、石川県で暮らす高齢の母の介護です。長男としての責任を果たし、家族との時間を最優先にするという人間的な決断でした。
そしてもう1つ、角居氏の心を強く動かしたのが「競走馬の命を救い、引退馬のセカンドキャリアを確立する」という使命感です。日本競馬では毎年約7,000頭のサラブレッドが誕生する一方、ほぼ同数の馬が登録を抹消されています。経済動物として淘汰されていく馬たちを目の当たりにしてきた角居氏は、現役時代から「競馬で得た名声と恩恵を、馬たちに直接還元しなければならない」という強い危機感を抱いていました。
片手間の活動ではなく、人生の後半すべてを投じて本格的な受け皿作りに取り組むため、角居氏は惜しまれつつも自ら調教師人生に幕を下ろしました。
【2026年最新】角居勝彦氏の現在|能登・珠洲市を拠点に描く復興とホースセラピーの未来
現在、角居勝彦氏は母の故郷である石川県珠洲市に生活の拠点を移し、馬を通じた地域活性化と福祉事業の推進に奔走しています。能登半島の豊かな自然環境を活かし、引退馬が穏やかに暮らしながら地域社会に貢献できる拠点の整備を進めてきました。
角居氏が珠洲市で特に力を入れているのが、馬と触れ合うことで心身の健康を回復させるホースセラピー(乗馬療法)の普及です。障がいを抱える子どもたちの療育や、高齢者のリハビリテーション、不登校の子どもたちのメンタルケアなど、馬が持つ包容力と癒やしの力を医療・福祉・教育の現場へ届ける試みを着実に広げています。
2024年に発生した能登半島地震では珠洲市も甚大な被害を受けましたが、角居氏は現地にとどまり、被災者支援や地域の復旧活動の先頭に立ち続けました。災害の傷跡が残る中でも「馬の温もりで地域の人々を元気づけたい」という思いのもと、被災地でのふれあい乗馬体験などを精力的に実施。現在も能登の創造的復興のシンボルとして、馬と共に歩むコミュニティづくりを力強く推進しています。
【引退馬支援活動】サンクスホースプラットフォームが目指すセカンドキャリアの革命

角居氏が展開する引退馬支援の基幹となっているのが、一般社団法人ホースコミュニティが主導する「サンクスホースプラットフォーム(サンクスホースプロジェクト)」です。
従来の引退馬支援は、ファンや愛好家の寄付に依存する「養老牧場」のモデルが主流であり、費用や受け入れ頭数に限界がありました。これに対し、角居氏が提唱するモデルは「馬自身が役割を持ち、自立して価値を生み出す仕組み」です。
サンクスホースプラットフォームでは、競馬を引退したサラブレッドを引き取り、それぞれの馬の適性に合わせて以下のような多様な進路へリトレーニング(再調教)を施します。
- 障がい者乗馬・ホースセラピー活動:穏やかな性格を活かしたメンタルケア・身体リハビリのパートナー
- 一般乗馬・観光乗馬:乗馬クラブでのレッスン馬やトレッキング用乗馬としての活用
- 学校・教育現場での情操教育:子どもたちへ命の大切さを教える教育支援パートナー
- 伝統神事・地域イベント:各地の祭りや神事における乗用馬
単に延命を図るのではなく、馬が社会の中で新たな役割を得て必要とされる循環型システムを構築することで、持続可能な引退馬支援のモデルケースを全国へ発信しています。
【角居厩舎の歴代名馬一覧】ウオッカからヴィクトワールピサまで伝説の調教師成績を振り返る
角居勝彦氏の現在の社会活動を支えているのは、調教師時代に築き上げた圧倒的な実績と、馬に対する深い観察眼です。2001年の厩舎開業から2021年の引退まで、JRA通算762勝、G1レース通算26勝(中央23勝、海外3勝)を達成。最多勝利調教師4回、最多賞金獲得調教師5回など、数々のタイトルを獲得しました。
角居厩舎から誕生した歴史的名馬の軌跡は、今なお競馬史に燦然と輝いています。
| 馬名 | 主な勝ち鞍・偉業 | 特徴・エピソード |
|---|---|---|
| ウオッカ | 日本ダービー、天皇賞(秋)、ジャパンC、安田記念連覇などG1・7勝 | 牝馬として64年ぶりの日本ダービー制覇。顕彰馬に選出された歴史的女傑。 |
| ヴィクトワールピサ | ドバイワールドカップ、有馬記念、皐月賞 | 東日本大震災直後の2011年、日本馬として史上初となるドバイWC優勝の快挙を達成。 |
| シーザリオ | 優駿牝馬(オークス)、アメリカンオークス(米G1) | 日本調教馬として初となる米国G1制覇。繁殖牝馬としてもエピファネイアなどを輩出。 |
| デルタブルース | 菊花賞、メルボルンカップ(豪G1) | 南半球最高峰のステイヤーズレースである豪州メルボルンCを日本馬として初制覇。 |
| カネヒキリ | ジャパンCダート連覇、フェブラリーS、東京大賞典 | 屈腱炎からの奇跡の復活劇を遂げたダート界の絶対王者。 |
| エピファネイア | 菊花賞、ジャパンカップ | シーザリオの仔としてG1を圧勝。種牡馬としても三冠牝馬デアリングタクトを輩出。 |
| サートゥルナーリア | 皐月賞、ホープフルS | シーザリオの血を引く超良血馬。卓越したスピードと瞬発力でクラシック制覇。 |
| キセキ | 菊花賞 | 極悪馬場の菊花賞を鮮やかに制し、長年にわたり王道中長距離路線を牽引。 |
名馬たちの調教において、角居氏は「馬に教わる」「馬の走りたい気持ちを邪魔しない」という独自の対話型アプローチを徹底しました。この「馬の個性を尊重する哲学」こそが、現在のホースセラピーやリトレーニング事業の根底に流れています。
【経歴プロフィールと著書】松田国英厩舎での修行時代から珠洲での挑戦、珠玉の名著まで
角居勝彦氏は1964年3月28日、石川県金沢市に生まれました。高校卒業後に北海道の育成牧場へ飛び込み、ホースマンとしてのキャリアをスタート。その後、JRA競馬学校を経て中京競馬場の厩務員、松田国英厩舎の調教助手として腕を磨きました。松田国英厩舎時代にはクロフネやタニノギムレットといった名馬の育成に深く携わり、近代競馬の礎となる先進的な調教ノウハウを吸収しました。
2000年に調教師免許を取得し、2001年に栗東トレーニングセンターで開業。緻密なデータ分析と馬のメンタルを重視した独自の育成メソッドを確立し、瞬く間にトップトレーナーへと駆け上がりました。
また、角居氏は執筆活動を通じても自身の競馬観や引退馬問題への提言を積極的に発信してきました。代表的な著書(本)には以下のような作品があります。
- 『角居勝彦のフシギな競馬力』(主婦の友社):勝てる馬の条件や厩舎スタッフとのチームビルディングを明かした名著。
- 『感性で生きる』(小学館):馬との対話を通じて得た人生訓や直感の大切さを綴ったエッセイ。
- 『調教師の本分』(角川新書):競馬界の構造や引退馬が直面するシビアな現実、自身の進むべき道を率直に語った一冊。
- 『さらば愛しき競馬』(朝日新聞出版):早期引退を決意した理由と、馬たちへの感謝を赤裸々に告白した集大成。
これらの書籍に共通しているのは、華々しい勝利の裏にある命の重みと、人と動物がどう向き合うべきかという本質的な問いかけです。
【角居勝彦】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:角居勝彦元調教師はなぜ定年前に引退したのですか?
A1:調教師定年(70歳)より14年早い56歳での引退を決めた理由は、高齢となった実母の介護を長男として引き受けることと、年間数千頭が引退するサラブレッドの命を救う「引退馬支援活動」および「ホースセラピー事業」に人生の残り時間をすべて捧げるためです。
Q2:角居勝彦氏は現在どこでどのような活動をしていますか?
A2:現在は石川県珠洲市に定住し、一般社団法人ホースコミュニティやサンクスホースプラットフォームの代表理事などとして活動しています。引退競走馬のリトレーニング、ホースセラピー(障がい者乗馬や心理的ケア)の普及、能登半島の地域復旧・活性化事業に取り組んでいます。
Q3:角居厩舎の歴代管理馬で最も有名な馬は何ですか?
A3:牝馬として64年ぶりに日本ダービーを制しG1・7勝を挙げたウオッカが最も有名です。そのほか、ドバイワールドカップを制したヴィクトワールピサ、アメリカG1を制したシーザリオ、豪州メルボルンCを制したデルタブルース、ダート王カネヒキリ、菊花賞馬エピファネイアなど多数の名馬を管理しました。
まとめ:人と馬が共生する社会へ|角居勝彦氏が切り拓く新たな地平
競馬界の頂点を極めた名調教師・角居勝彦氏の早期引退は、一時的な話題づくりではなく、馬の命と真摯に向き合い続けたホースマンとしての必然的な選択でした。
能登・珠洲市の豊かな自然の中で、引退馬たちが新たな役割を得て人々を癒やし、地域を元気づける姿は、近代競馬が長年抱えてきた課題に対する一つの希望ある回答です。ウオッカをはじめとする名馬たちと共に競馬史を塗り替えた名将は、今「人と馬が共に生きる持続可能な社会づくり」という、さらに大きく尊いレースの先頭を走り続けています。 (出典: 角 居 勝彦(Yahoo!ニュース))